現実と数学の区別が付かない

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gcd(nᵖ+a,(n+1)ᵖ+a) の突然の裏切り予想

前回の記事で \mathrm{gcd}(n^5+5,(n+1)^5+5)\mathrm{gcd}(n^{17}+9,(n+1)^{17}+9) はずっと 1 のままなのに,大きな  n で突然 1 でなくなるという「突然の裏切り」が起こることを紹介しました.
n⁵+5 と (n+1)⁵+5 の最大公約数 - 現実と数学の区別が付かない
他にも探してみると似た性質を持つ多項式がいくつか見つかります.それらを観察して,次の予想を立てました.

予想
p素数とし,x,t を変数とする.x^p +t(x+1)^p+tx に関する終結式を r_p(t) とする.このとき次が成り立つ.

  1. r_p(t)\mathbb{Z}[t] の元として既約.
  2. r_p(a)素数となる自然数 a が無限個存在する.
  3. q:=r_p(a)素数のとき, x^p+a\mathbb{F}_q[x] において相異なる p 個の1次式の積に因数分解される.
  4. さらに \beta^p +a=(\beta+1)^p+a=0 となる \beta\in \mathbb{F}_q がただ1つ存在する.


この予想が正しければ r_p(a)素数になる  a はたくさん存在し,そのとき \mathrm{gcd}(n^p+a,(n+1)^p+a) で「突然の裏切り」が起こることになります;
r_p(a)素数のとき  \mathbb{F}_q での像が \beta となる b\in\mathbb{Z},~0\le b\le q-1 を取ると,\begin{align*}\mathrm{gcd}(n^{p}+a,(n+1)^{p}+a)= \begin{cases}
q &(n\equiv b \mod q)\\
1 &(\mbox{otherwise})
\end{cases}\end{align*} となります.

この予想を解けた方には「裏切り」に関する何かしらの商品の進呈します.

状況証拠

r_p(t) を小さい p に対して計算してみると \begin{align*}
r_2(t)=&~4t+1\\
r_{3}(t)=&~27t^2+1\\
r_{5}(t)=&~3125t^4+625t^2+1\\
r_{7}(t)=&~823543t^6+6000099t^4+12005t^2+1\\
r_{11}(t)=&~285311670611t^{10}+86346568369165434t^8\\&~+15483521175490489t^6+1782585424103t^4+3879865t^2+1\\
\vdots
\end{align*}となります.p\le 67 までは既約であることを計算機で確認しました(でも小さいところで成り立っているからといってずっと成り立つとは限らないという話を最近聞いたような……)

追記r_p(t) は定数項が 1 なので原始的で, \mathbb{Q}[t] で既約であることを示せば十分です.t^{p-1} r_p(\frac{1}{tp}) が既約であることを Eisensteinの判定法で証明できそうです.

p に対し, r_p(a)素数となる 50 以下の a を列挙すると次のようになります.

p=2 のとき  a={\small 1,3,4,7,9,10,13,15,18,22,24,25,27,28,34,37,39,43,45,48,49}
p=3 のとき  a= 2,4,12,26,28,40,42
p=5 のとき a=2,5,7,8,13,17,18,22,27,31,40,46
p=7 のとき a=4,18,38,40,42
p=11 のとき a=4,5,8,14,17,18,23,26,49,50
p=13 のとき a=36
p=17 のとき a=9,15,34,38
p=19 のとき a=6,28,33,49
p=23 のとき a=45
p=29 のとき a=14,15
p=31 のとき a=50
p=37 のとき a=14

そしてこの表のすべての p,a で予想3,4 が成り立っています.

p=2 のとき

 r_2(a)=4a+1素数となる自然数  a は無限個存在します.
ピタゴラス素数 - Wikipedia
また, q=4a+1素数のとき \mathbb{F}_q[x] において\begin{align} (x+2a)(x+2a+1)=x^2+(4a+1)x+4a^2+2a=x^2-a+2a=x^2+a\end{align}となり, (2a+1)-2a=1 なので,予想3,4も成り立っています.

p=3 のとき

 r_3(a)=27a^2+1素数となる自然数  a 無限個存在するかどうかは私には分かりません.しかし, \mathrm{gcd}(r_3(1), r_3(2))=\mathrm{gcd}(28,109)=1 なので,ブニャコフスキー予想が正しいと仮定すれば, r_3(a)=27a^2+1素数となる自然数  a が無限個存在することになります.

ブニャコフスキー予想 - Wikipedia

また, q=27a^2+1素数のとき \mathbb{F}_q[x] において \begin{align}&\left(x+\cfrac{3a+1}{2}\right)\left(2x+\cfrac{3a-1}{2}\right)(x-3a)=x^3-\cfrac{27a^2+1}{4} x+\cfrac{-27a^3+3a}{4}\\
&=x^3+\cfrac{a+3a}{4}=x^3+a
\end{align} が成り立ちます. q 28 以上の素数なので  2 が可逆元であることに注意してください. \cfrac{3a+1}{2}-\cfrac{3a-1}{2}=1 なので,予想3,4が成り立っています.

p=5 のとき

 \mathrm{gcd}(r_5(1),r_5(2))=\mathrm{gcd}(3751,52501)=1 なので,ブニャコフスキー予想が正しいと仮定すれば, r_5(a)=3125a^4+625a^2+1素数となる自然数  a が無限個存在することになります.

 q=r_5(a)素数のとき, \mathbb{F}_q[x] において \begin{align}
x^5+a=
&~\left(x+\cfrac{625a^3+90a+11}{22}\right)\\
&~\left(x+\cfrac{625a^3+90a-11}{22}\right)\\
&~\left(x+\cfrac{625a^3+145a}{11}\right)\\
&~\left(x-\cfrac{1250a^3+125a^2+235a+7}{22}\right)\\
&~\left(x-\cfrac{1250a^3-125a^2+235a-7}{22}\right)
\end{align} が成り立ちます. \cfrac{625a^3+90a+11}{22}-\cfrac{625a^3+90a-11}{22}=1 であることから,予想3,4が成り立つことが分かります.

 p=37, a=14 のときを鑑賞

最後に  p=37, a=14 のときの「突然の裏切り」を鑑賞してみましょう.\begin{align*} &b=\\
&114639163986838022433471493033582231487059843696971501729723\\
&838399007961015906196300583570493634776987376087643269329057\\
&161223105482392984049807969081020156915883248950085087033826\\
&60163326302581676327242502043057172204427\\
&q= \\
&104310066642138695684562957075767539994224919231022785321022\\
&998638201111250690582693240070811357134844988196278442827230\\
&538607105018619585940730548217113231821013606082099727905440\\
&865311886180325006446369415049503294784509\\
\end{align*}とおくと,\begin{align*}\mathrm{gcd}(n^{37}+14,(n+1)^{37}+14)= \begin{cases}
q &(n\equiv b \mod q)\\
1 &(\mbox{otherwise})
\end{cases}\end{align*} となります.ここまでくると面白いかどうかも分からないですが何か凄いです.