羽以上の鳩を 個の巣箱に入れると,少なくとも1つの巣箱に2羽以上の鳩が入るというのが鳩の巣原理と呼ばれるものです.ほとんど当たり前と思えるものですが,これを使った面白い証明がいろいろと知られています.鳩の巣原理を使える形に問題を言い換える技法の巧妙さと,そこから鳩の巣原理一発で証明が終了してしまう気持ちよさを味わうことができます.
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この鳩の巣原理を無限集合の場合にも「集合 に対し, の濃度が の濃度より小さいとき, から への単射は存在しない」という形に一般化できますが,もう少し強く次のことが言えます.
が有限集合で が無限集合の場合には「無限集合を有限個に分割すると,いずれかは無限集合である」という形でお馴染みなもので,例えば「有界な実数列は収束部分列を持つ」というボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理や,ディリクレのディオファントス近似定理の証明に使われます.
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今回は が共に無限集合の場合に無限集合版の鳩の巣原理が使える問題を2つ紹介します.使うのは「濃度の大きい集合から小さい集合への単射は存在しない」という形のものです.
問題1の解答
とおき,実数 に対し, とする.曲線 は を通る放物線のグラフである.
任意の に対し, がある の点を通ると仮定する.その点を と書くことにする. は連続無限で は高々可算なので,ある でない実数 に対し となる. とおくと,\begin{align}
\left\{\begin{array}{c} c_1(a'-a)^2+(b'-b)=0 \\ c_2(a'-a)^2+(b'-b)=0\end{array}\right.
\end{align}となる.辺々引くと より であり,よって も成り立つ.これは を意味するが, に矛盾する.
よって,ある に対し,放物線のグラフ は と交わらない.
問題2の解答
を の拡大体で, より濃度の大きい代数閉体とする( 例えば の代数閉包とすればよい).\begin{align}C=A\otimes_{\mathbb{C}}K=K[X,Y]/(Y^2-X^3-1)\end{align}とおき, の積閉集合 を \begin{align}S=\{f(x,y)\in C\mid \forall (a,b) \in V_{\mathbb{C}}(Y^2-X^3-1), f(a,b)\neq 0\}\end{align}と定義し, とおく.ただし はそれぞれ の剰余環における像であり,体 に対し である.
は非特異アフィン代数曲線の座標環なのでデデキント整域であり, も の局所化なのでデデキント整域である.
ヒルベルトの零点定理より\begin{gather}
\mathrm{Spec}~A=\{(0)\}\cup \{\langle x-a,x-b\rangle_A \mid (a,b) \in V_{\mathbb{C}}(Y^2-X^3-1)\}\\
\mathrm{Spec}~C=\{(0)\}\cup \{\langle x-a,x-b\rangle_C \mid (a,b) \in V_{K}(Y^2-X^3-1)\}
\end{gather}である.ただし,可換環 と に対し, で が生成するイデアル を表す.
の素イデアルは または, と交わらない の素イデアルを に拡大したものだが, が と交わらない必要十分条件は であるので,\begin{gather}
\mathrm{Spec}~B=\{(0)\}\cup \{\langle x-a,x-b\rangle_B \mid (a,b) \in V_{\mathbb{C}}(Y^2-X^3-1)\}
\end{gather}である. が連続無限濃度を持つことも注意しておく.
に対し \begin{align} \langle x-a,x-b\rangle_B \cap A= \langle x-a,x-b\rangle_A \in \mathrm{Spec}~A\end{align}なので,自然な写像 が全単射であることが分かる.
あとは が単項イデアル整域であることを示せば が求める具体例であることが分かる.
に対し,離散付値環 の標準的な離散付値 ( の極大イデアルの生成元での値が となるもの) を と書く. はデデキント整域なので,任意の に対し, となる は有限個しか存在せず,さらに \begin{align}gB=\prod_{(0)\neq \mathfrak{p}\in \mathrm{Spec} ~B} \mathfrak{p}^{v_{\mathfrak{p}}(g)}\end{align}が成り立つことが知られている.
とする.
なので だが,いずれか一方は の生成元なので (中山の補題により,局所ネター環のイデアルの生成系からは極小生成系が選べる),少なくとも と のいずれか一方は成り立つ.どちらの場合も同様なので とする. に対し,\begin{align}h_c:=c(x-a)^2+(y-b)\in B\end{align}とおく. より であり, となる.
ここで,任意の に対し, を含む とは異なる の元が存在すると仮定する.その素イデアルを と書く. は連続無限濃度で の濃度はそれよりも大きいので,ある に対し となる. とおくと, より,\begin{align}
\left\{\begin{array}{c} c_1(a'-a)^2+(b'-b)=0 \\ c_2(a'-a)^2+(b'-b)=0\end{array}\right.
\end{align}が成り立つ.よって であり, となるが,これは矛盾.
よって,ある に対し, を含む の素イデアルは のみとなる.
この に対し \begin{align} h_c B=\prod_{(0)\neq \mathfrak{q}\in \mathrm{Spec} ~B} \mathfrak{q}^{v_{\mathfrak{q}}(h_c)}=\mathfrak{p}\end{align}となり, は単項イデアルである.よって は単項イデアル整域である.