現実と数学の区別が付かない

数学ネタのブログです

数学

ゼノンの運動のパラドックスは矛盾していない

今回は有名なゼノンの運動のパラドックスと呼ばれるものに関して考えてみます.ざっくり言うと「地点Aから離れた地点Bへの運動は,無限個の中間点を経由しければならないので存在しない」というようなことを言っています.「二分法」「アキレスと亀」「飛ん…

Grauert-Remmert の定理(整閉整域の判定法)

与作が木を切っても切らなくても今回は整閉包のお話です.ネター整域が整閉整域であるかを判定する Grauert-Remmert の定理というものがあり,これは整閉包を計算する上でも主要な働きをする面白い定理なのですが,証明が載っている教科書をあまり見かけませ…

987654321/123456789 がほぼ 8

計算機で計算してみると となり,整数部分が で,小数第1位から が 個連続しているので「ほぼ 」ですが,よく見ると が連続している部分がその後にも出てきます.しかも連続する の長さも と ずつ短くなっています.\begin{align} \cfrac{987654321}{1234567…

偶数次元の向き付け可能連結閉多様体の偶数次コホモロジー環は Gorenstein 環

タイトルが長い. を「偶数次元」で「向き付け可能」で「連結」な閉多様体(=コンパクトで境界のない多様体)とする. とおくと, の 係数の偶数次コホモロジー環 \begin{align} H^{ev}(X;\mathbb{Q}):= \bigoplus_{k=0}^{d} H^{2k}(X;\mathbb{Q}) \end{alig…

周期関数の1周期積分の区分求積法

高橋-森理論など,複素解析を用いて数値積分誤差を行う話があります.今回は比較的わかりやすい例として,周期関数の1周期積分の区分求積法は区間の分割数を増やすにしたがって非常に早く(指数オーダーで)収束することを紹介します. 周期関数の1周期積分 …

無限集合版の鳩の巣原理

羽以上の鳩を 個の巣箱に入れると,少なくとも1つの巣箱に2羽以上の鳩が入るというのが鳩の巣原理と呼ばれるものです.ほとんど当たり前と思えるものですが,これを使った面白い証明がいろいろと知られています.鳩の巣原理を使える形に問題を言い換える技…

x²+y³ のb関数を手計算する

今日は 関数というものの定義を紹介し,さらに の 関数を手計算で求めてみます. は擬斉次孤立特異点多項式と呼ばれるクラスに属する多項式で, 関数は簡単に計算できることが知られています.詳しく知りたい人は次の本の第6章などを参照してください.www.i…

Redlog 使ってみた

Quantifier Elimination (QE,限量子消去) を解いてくれるREDUCEのパッケージRedlogを使って大学の入試問題を解いてみます.東工大 1969前期 実数 が次の次の4条件を満たしている: このとき の符号を調べよ.名古屋大 1963前期 正方形とその内部の点がある…

gcd(nᵖ+a,(n+1)ᵖ+a) の突然の裏切り予想

前回の記事で や はずっと のままなのに,大きな で突然 でなくなるという「突然の裏切り」が起こることを紹介しました. n⁵+5 と (n+1)⁵+5 の最大公約数 - 現実と数学の区別が付かない 他にも探してみると似た性質を持つ多項式がいくつか見つかります.それ…

n⁵+5 と (n+1)⁵+5 の最大公約数

Twitterで見かけた答えが意外過ぎる問題.多項式の公約数と言えば、昔どこかに投稿したんだけど、nが自然数の時の n^5+5 と (n+1)^5+5 の正の公約数としてあり得る整数が、おそらく見た目からは予想できない結果で、面白い。— nishimura (@icqk3) 2020年8月1…

2次形式から曲面の曲率まで

今日の目的は次の定理を証明することです. を実対称行列とし,2つの2次形式 \begin{align} \boldsymbol{x}^\mathsf{T} A \boldsymbol{x},~~\boldsymbol{x}^\mathsf{T} B \boldsymbol{x}\end{align} で は正定値であるものを考える.束縛条件 のもとでの の…

正則列の Extended Rees Algebra

最近ネタがないのでネットで見かけた問題をひとつ.「正則列で生成されるイデアルの extended Rees algebra の定義イデアルは自明な関係式で生成されることを簡単に示せないか」という疑問を先日 twitter で見かけました.これは一見当たり前のような気がす…

隣接行列の一般化とトロピカル演算の正体

最近話題になったこの記事。 qiita.comこの記事は主に次の事実を扱ったものです。有向グラフの辺の重みを並べた行列のトロピカルな 乗の第 -成分は, 番目の頂点から 番目の頂点への道のうち,最小の重みを持つものの重みに等しいという話です。ここで,トロ…

ユークリッド幾何の第1公準

この記事は、日曜数学アドベントカレンダーの2日目の記事です。 adventar.org 1日目はtsujimotterさんの「パスカルの三角形にたくさん出てくる数: 3003」でした。3003はパスカルの三角形に何回出てくるのでしょうか?追記された部分も面白いのでまだ読んでい…

グレブナー基底の力技で既約性判定

今日はネットで見かけた次の問題をグレブナー基底を使って力技で解いてみます。 は の元として既約である。 www1.ezbbs.netちなみに のグラフを描くと♡になります。 今回採用するのは因数分解の可能性を未定係数法でしらみつぶしに調べるというエレガントな…

離散フーリエ変換と中国剰余定理

今日紹介するのは離散フーリエ変換は中国剰余定理としても理解できるというお話です。この見方をすると,合成積が離散フーリエ変換で積に化ける理由がよく分かります。 離散フーリエ変換 を正整数とし, を の原始乗根をします。長さ の複素数列 に \begin{a…

数値的半群環のイデアルの生成元の数

を体とし,正整数で定まる の部分環 ,または の部分環 を数値的半群と呼びます。MathPower にも出ていた可換環論botこと龍孫江さんの今日の記事で次の定理が示されていました。定理 のあらゆるイデアルは,高々2個の要素で生成される. blog.livedoor.jp こ…

留数定理とリーマン・ゼータ関数

この記事は留数定理については学習済みであることを前提にしています。今日はリーマン・ゼータ関数\begin{align}\displaystyle\zeta(s)=\sum_{n=1}^\infty \cfrac{1}{n^s}\end{align}の が正の偶数のときの値 を留数定理を使って計算します。 はベルヌーイ数…

ラッセルのパラドックス

今日は有名なラッセルのパラドックスが起きるメカニズムを考えてみます。ラッセルのパラドックスは数学の基礎である集合論に対する重要な問題提起となったものですが,ラッセルのパラドックスが起きるメカニズム自体には集合論は関係ないというお話です。 ラ…

Murtyの既約判定法

jurupapaさんのブログで面白そうなシリーズが始まりました。可解な代数方程式を冪根で解く計算を数式処理システムMaxima上で行うというものです。 maxima.hatenablog.jp ガロワ理論が生まれた経緯を考えると,究極と言ってもいいくらいのテーマだと思います…

微分方程式の解法で突然出てくる謎の変数変換

今日は変数変換を用いた微分方程式の解法の謎に迫りたいと思います。この記事は微分方程式の初歩である,変数分離形の微分方程式と1階線形微分方程式の解法を知っている方を対象としています*1。 を自由変数, を未知関数とします。 まずは微分方程式をいく…

ヘンゼルの補題からニュートン・ピュイズーの定理へ

に対し,ヘンゼルの補題で の根 が の根に持ち上がるための条件に というものがありました。egory-cat.hatenablog.comこの条件は外すことができません。例として の場合を考えてみましょう。 は 重根 を持ちますが, は既約なので に根は持ちません。では と…

ベキ級数環における平方根の計算

一般化された二項定理によれば のマクローリン展開は\begin{align} (1+t)^{\frac{1}{2}}=\sum_{k=0}^\infty \binom{\frac{1}{2}}{k}t^k,~~~\left|t\right| \end{align}で与えられます。ここで は一般化された二項係数 \begin{align} \binom{\frac{1}{2}}{k}=…

有理数のp進数展開とヘンゼルの補題

今回はヘンゼルの補題を使って次の問題を解いてみます. を ] の範囲で因数分解せよ.この式は3次式なので,因数分解できるなら ()の形の因子で となるものがあるはずなので,全ての場合を試すことでこの問題は解くことはできます.しかしこの方法には と …

3次・4次方程式の解法の覚えやすいやつ(個人の感想です)

1次方程式と2次方程式は中学数学で習います。3次方程式と4次方程式も代数的な解法が知られています。三次方程式 - Wikipedia 四次方程式 - Wikipediaしかしなんか複雑で覚えにくいですね。今回は本質的に新しい方法ではないですが,個人的に覚えやすいと思う…

位相幾何学クイズ・その1

幾何学にも初等幾何学,微分幾何学,代数幾何学などなど,いろいろな種類があります。それらは「どういう図形(多様体)を扱うか」と「どういう図形を『同じもの』と捉えるか」の2点によって区別されます。今回の記事は位相幾何学と呼ばれる幾何学に関するク…

連立方程式とその解の重複度

今日はTwitterで見かけた連立方程式を解いてみます。 \begin{align} \left\{\begin{array}{ccc} x^2+y+z &=& 1\\ x+y^2+z &=& 1\\ x+y+z^2 &=& 1 \end{array}\right. \end{align}元ネタは多分これ↓ http://mathsoc.jp/publication/tushin/0303/maruyama3-3.p…

ある数が 0 であることの証明に360年かかることもある

今日は3月14日ということで円周率の日です。ここはひとつ円周率をネタに記事を書いてみましょう。円周率は と無限に続く数ですが,時間と計算のリソースさえあれば理論的にはには第何桁目までも計算することはできます。しかしそのことをもって,我々が円周…

美術が文学よりも奥が深いことを数学的に証明してみる

警告 この記事はうっかり現実と数学の区別が付かなくなって書いてしまったクソ記事です。ご注意ください。 今日は絵画・彫刻などの美術が,俳句・短歌・小説などの文学よりも奥が深いことを数学を使って証明してみましょう。まずは何をもって奥が深いという…

働きアリの法則と微分方程式

こんな面白い記事がはてブに上がっていました。ざっくり言うと,350回以上も引用された,「ロサダの法則」というものを提唱した心理学の論文があるのですが,そこで使われている微分方程式のモデルに妥当性が全く無いことが明らかになったというお話です。そ…