今年度の京大の入試問題がネットでも見られるようになりました。
kaisoku.kawai-juku.ac.jp
理系数学の問2(文系数学の問3)は次のような問題でした。
解答例:
以下, は全て で考える。
フェルマーの小定理より なので
\begin{align}
n^3-7n+9\equiv n-7n\equiv -6n \equiv 0
\end{align}
よって は常にの倍数となり, が素数になるのは のときのみ。 を解くと 。
素数の定義に「正の数」という条件が入っているかどうかという問題はありますが(Wikipedia のように正の整数(自然数)とする定義も一般的ですが,「負の素数」を積極的に排除する理由もない), は整数解を持たないので,「負の素数」 を素数に入れても答えは変わりません。
この問題はパッと見では超難問のように思えます。もしも が素数となるような整数 が無限個あったとしたら,それらを全て求めるのは少なくとも大学入試レベルの問題では無くなってしまいます(数学の研究者でも解けないと思います)。しかし幸運にも全ての を割り切る を発見し,結局は が になる を求めればいいことになります。受験生はこの を具体的な をいくつか代入することで発見し,実際に が の倍数であることを初等整数論の知識で証明する,といった流れで解答を作ることが出来ます。
全ての を割り切る数 の存在は,問題作成者がこの問題に仕込んだ仕掛けです。しかしそのような仕掛けを入れたことはある意味で必然であるとも言えます。その理由を説明しましょう。
ブニャコフスキー予想
この問題の元ネタと思われるのが,ブニャコフスキー予想と呼ばれる予想です。
ブニャコフスキー予想 - Wikipedia
Bunyakovsky conjecture - Wikipedia
定数でない整数係数多項式 ] が次の3条件を満たすとき,無限個の に対して は素数となる。
- の先頭係数が正
- は整数係数多項式として既約
- が正の整数全体を動くとき,全ての を割り切るような より大きい整数は存在しない
の次数が1のとき,ブニャコフスキー予想の主張は算術級数定理そのものなので,正しいことがすでに知られています。つまりこの予想は算術級数定理の一般化になっています。
算術級数定理 - Wikipedia
さて,京大の問題の はこの条件1. 2. を満たしています。もし仮にブニャコフスキー予想が正しく,さらに が条件3 まで満たしてしまうと, が素数となる が無限個あることになってしまい,とても解けるような問題ではなくなってしまいます。つまり,大学入試レベルの問題であるためには,条件3を満たさない,つまり全ての を割り切る数が存在することは必然ともいえるのです。
また, の存在により,ブニャコフスキー予想の条件3 が予想に必要であることも分かります。