現実と数学の区別が付かない

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偶数次元の向き付け可能連結閉多様体の偶数次コホモロジー環は Gorenstein 環

タイトルが長い.

X を「偶数次元」で「向き付け可能」で「連結」な閉多様体(=コンパクトで境界のない多様体)とする.\dim X=2d とおくと,X\mathbb{Q} 係数の偶数次コホモロジー環 \begin{align}
H^{ev}(X;\mathbb{Q}):= \bigoplus_{k=0}^{d} H^{2k}(X;\mathbb{Q})
\end{align}は Gorenstein 環になることを示す.

H^{ev}(X;\mathbb{Q}) はベクトル空間としての加法とカップ\cup と呼ばれる積によって可換環になっており,カップ積による双線型写像 \begin{align}
H^{2k}(X;\mathbb{Q})\times H^{2d-2k}(X;\mathbb{Q}) \xrightarrow{\cup} H^{2d}(X;\mathbb{Q})\cong \mathbb{Q}
\end{align}は非退化 である(ポアンカレ双対性).

H^{ev}(X;\mathbb{Q}) は唯一の極大イデアル \mathcal{m}= \bigoplus_{k\ge 1} H^{2k}(X;\mathbb{Q}) を持つアルティン局所環で,剰余体は  H^{ev}(X;\mathbb{Q})/\mathcal{m} \cong H^{0}(X;\mathbb{Q})\cong \mathbb{Q} である.

よって H^{ev}(X;\mathbb{Q}) が Gorenstein 環であることは socle と呼ばれるイデアル\begin{align}
0:\mathcal{m}=\{x\in H^{ev}(X;\mathbb{Q}) \mid \forall \alpha \in\mathcal{m},~\alpha\cup x=0\}
\end{align}が \mathbb{Q}-ベクトル空間として1次元であることと同値である (これを定義とする流儀もある).

 H^{2d}(X;\mathbb{Q})\subset 0:\mathcal{m} は明らか.また,任意の \alpha \in H^{2k}(X;\mathbb{Q}), 0\le k\le d-1, に対し,ポアンカレ双対性より,ある  \beta \in H^{2d-2k}(X;\mathbb{Q})\subset \mathcal{m} が存在して \alpha \cup \beta \neq 0 となるので, \alpha \not\in 0:\mathcal{m} である.よって, 0:m=H^{2d}(X;\mathbb{Q})\cong \mathbb{Q} であり,H^{ev}(X;\mathbb{Q}) は Gorenstein 環である.

d 次元の非特異複素射影多様体 X は実多様体として偶数次元 2d を持ち,さらに X が射影空間 \mathbb{P}_{\mathbb{C}}^d,旗多様体,グラスマン多様体,またはトーリック多様体のいずれか場合はコホモロジー環が偶数次コホモロジー環と一致することが知られている.よってこれらに対してはコホモロジーH^*(X;\mathbb{Q}) が Gorenstein 環になる.