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微分方程式の解法で突然出てくる謎の変数変換

今日は変数変換を用いた微分方程式の解法の謎に迫りたいと思います。

この記事は微分方程式の初歩である,変数分離形の微分方程式と1階線形微分方程式の解法を知っている方を対象としています*1

 x を自由変数, y=y(x) を未知関数とします。

まずは微分方程式をいくつか

2つほど微分方程式とその解法の例を見てみましょう。

\begin{align}y'=\cfrac{y}{x}-y^2\end{align}

この微分方程式 w=\cfrac{y}{x} という変数変換で,変数分離形の微分方程式 w'=-xw^2 に変換することができます。これを w について解いて  w=\cfrac{y}{x} を代入すれば元の方程式の一般解が求まります。

\begin{align}(1+x)y''+xy'-y=0\end{align}

これは w=y'+y と変数変換すると,変数分離形の微分方程式 w'=\cfrac{w}{1+x} に変換することができます。この一般解を  w=C_1(1+x)w=y'+y に代入した,1階線形微分方程式  y'+y=C_1(1+x) を解くことで元の方程式の一般解が求まります。

謎の変数変換

微分方程式を勉強しているとよく出てくるのが,この

「変数変換すると解法が分かっている微分方程式に変換できる」

というやり方です。

そう言われて実際に計算してみると確かにそうなることは分かるのですが,なぜそのような変数変換を思い付いたのかは一切教えてもらえずにモヤモヤしてしまいます。「センスだから」と言われるともうそれ以上つっこんで聞くこともできません。

しかし,それでは納得できない,理屈が知りたいという方のために,少しは納得ができそうな説明をしてみようと思います。

同次形の微分方程式を再考する

「変数変換すると解法が分かっている微分方程式に変換できる」という解法で一番初めに出会うのが同次形の微分方程式と言われるものです。

同次形
\begin{align}y'=f\left(\cfrac{y}{x}\right)\end{align}は w=\cfrac{y}{x} と変数変換することで変数分離形の微分方程式に変換できる。

確かに実際にやってみるとそうなっています。最初に見た微分方程式  y'=\cfrac{y}{x}-y^2 は同次形ではありませんが,同じ変数変換で変数分離形の微分方程式に変換できました。

ここで発想を逆転して考えてみましょう。

w=\cfrac{y}{x} と変数変換することで変数分離形に変換できる微分方程式とは,w に関する変数分離形  w'=f(x)g(w) から w=\cfrac{y}{x} という変数変換で得られるものに他なりません。

さて,実際にどのような微分方程式w=\cfrac{y}{x} という変数変換で変数分離形になるのか求めてみましょう。変数分離形  w'=f(x)g(w)w=\cfrac{y}{x} という変数変換を施します。

 y=xw より  w'=\cfrac{y'}{x}-\cfrac{y}{x^2} なので, w'=f(x)g(w)
\begin{eqnarray*}
\cfrac{y'}{x}-\cfrac{y}{x^2} &=& f(x)g\left(\cfrac{y}{x}\right)\\
y' &=& \cfrac{y}{x}+xf(x)g\left(\cfrac{y}{x}\right)
\end{eqnarray*}
となります。ここで  h(x)=xf(x) と置くことで,次の微分方程式の解法を得ます。

同次形の一般化
\begin{align}y'=\cfrac{y}{x}+h(x)\cdot g\left(\cfrac{y}{x}\right)\end{align}は w=\cfrac{y}{x} と変数変換することで変数分離形の微分方程式に変換できる。

これの特別な場合, h(x)=1 g\left(\cfrac{y}{x}\right)=f\left(\cfrac{y}{x}\right)-\cfrac{y}{x} としたものが,古典的な同次形の微分方程式  y'=f\left(\cfrac{y}{x}\right) です。

最初に見た微分方程式は, h(x)=x^2,~g\left(\cfrac{y}{x}\right)=-\left(\cfrac{y}{x}\right)^2 の場合です。

同次形の微分方程式の解法を最大限に一般化することができました。こう計算してみると「やってみるとそうなる」というぼんやりした世界を抜け出し,理屈が分かったような気分になることができます。

変数変換  w=y'+y

さて,2つ目の微分方程式では  w=y'+y という変数変換で変数分離形に変換できました。

もうやることは分かりますね。このやり方で解けるのは,w に関する変数分離形の微分方程式  w'=f(x)g(w) から  w=y'+y という変数変換で得られたものです。

計算してみましょう。 w'=y''+y' なので,  w'=f(x)g(w) は \begin{align}y''+y'=f(x)g(y'+y)\end{align}となります。

これが斉次線型微分方程式になる  g(w)=w の場合を考えると \begin{align} y''+(1-f(x)) y' -f(x) y=0\end{align} となります。

つまり  y'' の係数が 1 になるように両辺を適当な関数で割ってこの形になる2階線形微分方程式 w=y'+y という変数変換で変数分離形に変形できることが分かりました。

 y'' の係数を 1 になるように変形しなくても判定できるように  f(x)=-\cfrac{q(x)}{p(x)} とおいて,両辺を  p(x) 倍してみましょう。すると\begin{align}
p(x) y''+\{p(x)+q(x)\}y'+q(x)y=0
\end{align}なります。これで次の微分方程式の解法が得られました。

\begin{align}p(x) y''+\{p(x)+q(x)\}y'+q(x)y=0\end{align} の形の2階線形微分方程式 w=y'+y と変数変換することで  w に関する変数分離形に変換できる。

その一般解  w=f(x) に対して1階線形微分方程式  y'+y=f(x) を解くことで元の方程式の一般解を求めることができる。

2つ目の微分方程式  (1+x)y''+xy'-y=0 はまさにこの形をしています。

ここまで見てみると,左辺は \begin{align}p(x)(y''+y')+q(x)(y'+y)=p(x)(y'+y)'+q(x)(y'+y)\end{align} と変形できるので,変数変換  w=y'+y も当たり前のように思えてきます。

オリジナルの解法を作ろう

変数変換の方法なんて無限にあるので,いくらでもオリジナルの微分方程式の解法を作り出すことができます。

 w=y'+xy と変数変換することで  w に関する変数分離形に変換できる微分方程式を求めてみましょう。完全に一般の場合を考えると煩雑になるので,\begin{align}w'=f(x)w\end{align} の形の変数分離形だけ考えることにします。

 w'=f(x)w w=y'+xy と変数変換すると\begin{align}y''+(x-f(x))y'+(1-xf(x))y=0\end{align}ここで  f(x)=-\cfrac{q(x)}{p(x)} とおくと\begin{align}
p(x)y''+(xp(x)+q(x))y'+(p(x)+xq(x))y=0
\end{align}ここで係数を見やすくするために  P(x)=p(x),  Q(x)=xp(x)+q(x) とおくと p(x)+xq(x)=(1-x^2) P(X)+xQ(x) なので\begin{align}
P(x)y''+Q(x)y'+\{(1-x^2)P(x)+xQ(x)\}y=0
\end{align}となります。次の微分方程式の解法が得られました。

\begin{align}
P(x)y''+Q(x)y'+\{(1-x^2)P(x)+xQ(x)\}y=0
\end{align}の形の2階線形微分方程式 w=y'+xy と変数変換することで  w に関する変数分離形に変換できる。

その一般解  w=f(x) に対して1階線形微分方程式  y'+xy=f(x) を解くことで元の方程式の一般解を求めることができる。

この解法で解ける問題を作ってみましょう。 P(x)=1+x^2, Q(x)=1+x^3 とすると,次の微分方程式になります。

\begin{align}(1+x^2)y''+(1+x^3)y'+(1+x)y=0\end{align}

いい感じに一見どう解いたらいいか分からないものができました。せっかくなので実際に解いてみましょう。

w=y'+xy と変数変換すると  w'=\cfrac{x-1}{x^2+1}w となり,これを解くと  w=C_1\sqrt{x^2+1} ~e^{-\tan^{-1}x} ( C_1 は定数) となります(ただし\tan^{-1}x \tan x逆関数)。

これを  y'+xy=w に代入した1階線形微分方程式を解くと\begin{align}
y=C_1 e^{-\frac{1}{2}x^2} \int \sqrt{x^2+1} ~\exp\left({\frac{1}{2}x^2-\tan^{-1}x}\right)dx\end{align}なります。

\sqrt{x^2+1} ~\exp\left({\frac{1}{2}x^2-\tan^{-1}x}\right) の原始関数の一つを F(x) とおくと,これは \begin{align} y=C_1e^{-\frac{1}{2}x^2}F(x)+C_1C_2e^{-\frac{1}{2}x^2}\end{align}となるので,y=e^{-\frac{1}{2}x^2}F(x),~y=e^{-\frac{1}{2}x^2} が基本解になります。

おわりに

実際に微分方程式を解くときに,どのような変数変換をすればよいか見抜く方法はよく分かりません。結局,センスの問題かもしれません。

とりあえず,「変数変換すると解法が分かっている微分方程式に変換できる」という方法に出会ったら,どのような形の微分方程式なら同じ解法で解けるかを計算してみるといいでしょう。それをまとめて教科書に載っていないようなオリジナルの公式集を作っておけば,役に立つこともあると思います。経験を積んでいくうちにセンスも上がるかもしれません。

いつか微分方程式を華麗に変数変換で解き,何でそんな変数変換を思い付くんだとざわめく群衆に「センスだよ」とドヤ顔をかますその日まで。

俺たちの戦いはこれからだ!(完)

*1: 変数分離形  y'=f(x)g(y) の一般解は \begin{align}\displaystyle \int\cfrac{dy}{g(y)}=\int f(x)dx\end{align} を計算したもの.1階線形微分方程式  y'+P(x)y=Q(x) の一般解は  \mu'(x)=P(x) なる \mu(x) を用い \begin{align}\displaystyle y= e^{-\mu(x)}\int Q(x) e^{\mu(x)}dx\end{align} となります。詳しくは標準的な微分方程式の教科書を見てください。